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「ままだ」対談:笠間焼作家 寺本 守氏/磯蔵酒蔵 磯 貴太氏/株式会社ワポーター 飯村 祐子氏/笠間工芸の丘 福永 信一氏

DATE:2019.11.13

NAME:オリベル

 笠間稲荷神社の程近く、裏の細道を入ったところに居酒屋「ままだ」はある。入口の暖簾がはたはたと揺れ、その上にはなぜか「呂閑人」という看板。旨い酒と肴に誘われ集うメンバーは4人。笠間に来て1年半、笠間という土地の"不思議"に魅了された笠間工芸の丘(茨城県笠間市)の福永 信一氏。笠間の地酒「稲里」を造る磯蔵酒蔵(茨城県笠間市稲田)の磯 貴太氏。日本の伝統工芸品を主に海外向けのブランディングを図る株式会社ワポーターの飯村 祐子氏。そして、国内外で高い評価を受ける笠間焼陶芸作家の寺本 守氏だ。酒を酌み交わせば、今宵も濃く熱いトークが繰り広げられる…


●福永   笠間に来て1年半だけど、ここは本当に不思議なまち。いい所だよ。

●磯    南吉原のあたりも素敵な雰囲気があっていいですよね。クラインガルテンのあたりもいいけど、雑木林の感じがいい。

●寺本   私も南吉原だけどね、あそこは笠間のビバリーヒルズだから(笑)

●福永   笠間は魅力的な作家さんも多いよね。これから飯村さんと海外にも販路を広げることを考えているけど、「新しい笠間」を作っていきたいんだよね。そのためには、この土地の良さや海外に訴えられるようなものを、地元の人たちに考えてもらいたい。特に若い世代の発想が前面に出れば、このまちはもっと良くなると思う。

●磯    笠間には昔、芸者さんが150人くらいいて、今はもう解散してしまったけど、去年、芸納会というのを稲荷神社でやったんです。子どもの頃に聴いた三味線の音を覚えていますよ。
 自分の子ども時代って、笠間の陶芸家さんたちってよく飲むなとか、よくケンカしてるなってイメージがあった(笑)それから、「陶炎祭(ひまつり)」の話をよくしていたのを覚えている。毎晩毎晩、よくそんなに揉めるな、と思っていたけど、それだけ真剣だったんだよね。寺本先生も「陶炎祭」をつくった一人。

●寺本   35年くらい前にアメリカに行って、全米からの審査をした作品を並べるアートフェアというのが各州であって、それに参加した時に、「これを笠間でやってみたい!」と思ったんだよね。笠間に帰ってきて陶芸仲間7人と「やろう!」と発起したんです。それが「陶炎祭」のスタートだった。始まりは、今は道路になってしまったけど、小さな空地だったんだよ。

●飯村   最初の頃の陶炎祭の写真を見たとき、「なんてカッコイイんだ!」と思いましたよ。

●寺本   売る目的よりも「笠間を知ってほしい」一心だった。みんなフレンドリーで面白いから、どんどん人が集まっていったんだ。

●磯    昔の陶炎祭は窯も良かったし、ステージもカッコ良かったよね。作家自身がステージに立ったり色々やって、顔が見える手作り感が強いお祭りだった。

●寺本   みんな手作りで、ステージはデザインコンペがあって、入賞したデザインが採用されたりしていたんだよ。プロのミュージシャンを呼んだり、だんだん火がついていってね。あの頃はみんな熱くて、1カ月以上前から仕事の手をとめて、砂利を引いたり祭りのための準備をしていたんだ。

●磯    実際「お祭り」でしたよね、「物を売る」というよりも。みんなで飲んで騒げ!みたいな(笑)
●寺本   今の笠間焼の陶芸家たちは「祭り」よりも「作品を売ること」を求めるけど、作る人は作る・売る人は売るでいいと思う。そのために販売店だってあるんだから。販売店が儲かって、初めて作り手がいる。私はそれを守り続けようと思う。

●飯村   本来の社会の仕組みはそういうものですしね。

●磯    安売りすると物の価値が下がってしまうから、安売りだけはやめてほしいですね。

●福永   「物を売るプロ」って大事なんだよね。利益を上げるというのは決して悪いことではなくて、社会からの評価なんだから。

●飯村   先日大阪で工芸の催事に携わった時、販売のプロって本当にいるんだなって感心したんです。購入したお客さんも満足されていて、それはお見事でした。魅力をいかに伝えるかが重要なんだと思います。

●寺本   販売のプロフェッショナルは本当に必要だよ。そうすれば不必要な安売りをすることもなくなる。

●磯    日本酒も陶芸と同じです。販売のプロは、その商品や作り手のインフォメーションを正しく知って、受け身ではなくお客さんにどんどん与えてもらわないと。インフォメーションが足りないから買ってもらえないんです。日本酒もそうだけど、笠間焼も、「伝統工芸って何?」という若い人たちに買ってもらうために、インフォメーションをどう伝えるのか、それが「売るプロ」の仕事だと思うんです。

●福永   寺本さんたちが陶炎祭にお客さんが来てもらうために努力したように、作家さんたちも自分の作品をどう見せるかという工夫や努力をしていかないといけないと思う。自分の作品のコンセプトは何なのか、何を表現し、何を理解してもらいたいのか。

●寺本   私は毎回の個展で「新しいものを出す」ということをコンセプトにしているけど、作家自身が意識を持たないといけないと思う。なぜ自分は焼き物をやっているのか、原点に戻って自問自答を続けることだよね。造形作家でいたいのか、器を作りたいのかとかね。
●磯    寺本さんと飲みに行くと面白いんだよ。武勇伝がたくさんあるんだから。有名人に囲まれて、すごい経験をさせてもらいましたよ。笠間でも、東京でも、ニューヨークでも。こんな人、なかなかいないよ。

●寺本   作家の先輩たちにも声かけて一緒にお酒を飲んで、ケンカ売ったりしてね(笑)追いつかなきゃという熱い気持ちがあったからなんだけど、今思うと生意気だったよね。

●磯    だからこそみんな仲が良かった印象があるなぁ。揉めるほどに一致団結していくというか。

●寺本   今の若い人に「一緒に飲みましょう」とか、ケンカを売られることがないのは、つまらないなぁと思うよね。

●福永   最近ある若い作家さんと話をした時に、「先輩たちと同じ土俵で戦っては、知ってもらうまでに時間がかかってしまうから、違う手段でやっていかないと」という意見がありました。それはそれで構わないと思う。

●磯    現代的なものはいいと思うけど、人と同じものを作っていても意味がない。自分が何を作るのか、考え続けないと。

●福永   陶芸の世界の基準はなくなってきている気がします。どこに価値観を置くかという話だけど。日本なのか、海外なのか、経済的にか、アートとしてなのか…ただ、松井康成先生の作品のように、いつの時代に見ても凄いと思うものはある。

●寺本   松井先生は凄い!多作だし、努力家です。尊敬するべき作家ですよ。
 今は、公募展離れしている実態もある。人に評価されて、入選・落選が決まる。毎年受験をしているような気持ちだよね。その意識を持つ作家は少なくなってきているのかな。

●飯村   時代もあると思います。海外では日本国内の受賞歴や陶歴はあまり関係ありません。ただ世界中から挑戦してきた人の集まりなので、本質を知らないと戦えません。

●寺本   造形する力って、海外の人は圧倒的だよね。レベルが違うよ。

●飯村   根底が違うんですよ。日本では芸術は「感性」だと言われますが、海外では表現する方法を学ぶ「学問」であり、外交に使われる手段でもあります。模倣品がいかに駄目なもので、自分だけのものを創造するためのコンセプトについて徹底的に教え込まれているんです。

●寺本   芸術の世界は作品でしか評価されないんだから、学んだものをいかにアウトプットするかが大事なんだよね。そのためには、美術の教育は重要だし、教える側も作り手でないといけないと思う。
●福永   社会は常に動いていて、作品を見る人たち個人の価値観も変わっていっている。販売する手法も変わっていくし、継続できなかったら意味がない。作家の見方とビジネスの見方はまた違う。笠間のまちとしては作家さんたちが食べていける環境にしていかないといけないし、それは我々ビジネスマンの仕事。今の笠間に必要なことは、"発信力"と"販売力"だと思う。

●磯    そのためには他力本願ではなくて、もっと作家と、工芸の丘と、笠間のまち全体が"一緒に"やっていかないといけないと思う。揉めながら、福永さんの言う「新しい笠間」の展開に、みんなで協力していきましょうよ。また、お酒でも飲んで、やっぱり揉めながらさ。




ままだ
新鮮な食材にこだわりつつも、もつ煮や串焼き等の一品料理をリーズナブル価格で提供。季節限定のメニューもあり。
笠間市笠間1173
17:00~23:00/木曜定休

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